坪能 克裕 公式ウェブサイト Ⅲ(2001〜)

Katsuhiro Tsubonou Official Website. Act 2001~

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老化と新化

 老化現象は凄まじく楽しい。誰でも高齢になるに従い、主にアナログの身体部は劣ってくる。厄介なことが多くなり、その手続きが煩わしくなるものだ。高齢ドライバーが勘違いする事故も多いが、それはデジタルの信号を送ってもアナログ部に伝わっていなかったりするからだ。

 高齢化は指先、口元からといわれていたが、目も耳も怪しくなる。ところが人によるのだろうが、今まで見えなかったモノが見え、聞こえなかった音が聞こえるようになってくる。別に霊界の呼びかけが分かるワケでは無い。何を考えてどうつくりたいのか、作品づくりの瞬間が見て取れることもそのうちの一つだ。音楽の表現でも、みんなが理解できる共通言語も必要だが、聴いたこともない手で知らなかった世界に誘ってくれるのが芸術の面白いところだ。しかしなかなかそんな世界は滅多にお目に掛からない。結構バレバレな表現で誤魔化しているひとが多いモノだ。

 聞こえなかった音たちが浮かび上がってくる、ということは個々の楽器やアンサンブルで呼び起こされる「倍音」の上に現れる新たな音の組み合わせのことだ。音には純音もあるが、大体様々な倍音が一杯詰まっているものだ。それをどうひとは感じ、表現して、私たちは空間に響く音たちと触れ合っているかが音楽の醍醐味なのだ。名人たちの倍音づくりも面白いが、実はヘタな人のアンサンブルの高周波成分のぶつかり合いの方が面白い時がある。その周囲の聴力は衰えたかもしれないが、可聴範囲で聴き合える倍音のぶつかり合いによる新次元は、気が付いたら高齢者の楽しみの特権かもしれない。

名村 宏

 作詞家の「名村 宏」氏をご存じの方は少ないかもしれない。主に子どもの歌の作詞をされていた。キングレコードの専属だったこともあった。私は90年代にキングのディレクターの紹介でお仕事をさせていただいた。

 亡くなられて15年以上経つだろうか… ご自分の誕生日のお祝い用に缶ビールを冷やしておいて、飲む前にお風呂に入って、そのママ一人で乾杯することもなく亡くなられた。

 公表されている氏の作品リスト内には、私は多くの子どもの歌を当時書いていたことが分かる。それを氏より十年程早く無くなった奥さんが、新作が発売されるといつでも何処でも何百回も歌い続けてくださった話しを、奥さんが亡くなられた後に氏よりお聞きした。ご主人のお仕事も深く愛され暮らしておられた証拠だと私は思った。と同時にたった一人でも深く愛して歌ってくれ続けた人がいたことが私には誇りだった。

 合唱組曲もつくらせていただいた。You Tubeで「蝶の谷」を検索すると合唱コンクールで歌われた「岡崎市立矢作南小学校」の熱演を聞くことが出来る。

ジュニア・オーケストラ

 半世紀前には考えられなかったステージが全国で展開している。小中高生を中心としたオーケストラが各地で育っていて、その成果が評価され始めていることだ。全国のそれらの団体の多くを私は拝聴して来ている。

 四半世紀前でも、オーケストラに準じた音楽団体が生まれていたが、まだ微笑ましいアマチュア団体というレヴェルだったように思われる。そこから育った子どもが世界を闊歩する実績になった人もいたが、そこで習得した技術のクセがその後の才能を閉ざしてしまったこともあったようだ。

 今は違う。プロの、しかも一流オーケストラの主席奏者の指導チームが直接子どもを指導している団体が増えた。ママごとから発展した大人と同じような音楽のコピーがステージに拡がっている。そこに賞賛はあっても文句は無い。それはステージの披露を踏襲した成果の表れだが、演奏も出来ない子どもとの共有に向かう手だても残しておかなければいけないような気がしている。鹿鳴館の時代ではないのだから。しかし、指導者にそのヴィジョンがないので、なかなか新たな音楽の共有が、技術を持たない人びとと出来ないでいる。 SDGsの時代、その手だてはすでに学校や社会でも実績が積まれていて、これからの半世紀に楽しみが拡がって行くように思われる。演奏指導者はそこが今後の課題となっていくように思われる。

東京文化会館チェンバーオーケストラ

 東京文化会館が主催してきた「東京音楽コンクール」の上位入賞者が集い、室内オーケストラの演奏会がこの11月26日に同館で開催された。

 文化会館がオーケストラや合唱団を持ち、市民に質の高いプログラムを提供する時代になってから大分経った。東京でも実現した形だが、他と異なるのは国際的なコンクールを実施して、その受賞者にステージを設け、受賞後の各個人の活動を支援してきて、更に室内オーケストラに発展させているところだ。

 コンクールで人財を発掘させるだけでなく、その後の支援を続けている会館の活動は素晴らしいことだと思われる。

 演奏曲目は、シューマンのピアノ協奏曲、ベートーヴェンの交響曲第二番等だったが、26人の編成は新鮮で豊かなアンサンブルを聴かせてくれていた。それは在京のオーケストラ団体が再編する時にも参考になり、大都市で同規模のオーケストラが続々と誕生し、文化芸術活動ができる時代になっていく予告になったようだ。とにかく優秀な若手音楽家が多数在住している都市が多いのだから・・・

 アンサンブルをまとめた指揮者は、国内外で大活躍の若手のひとり「三ツ橋敬子」氏だが、本公演だけでなく、その後「オーケストラ・プロジェクト」などの現代音楽プログラムの日を拝聴しても、作品・オーケストラの生命を瞬時に捉え、ステージを越えて音楽を人びとに開放させてしまう力は、その人気・実力をもってこれからの音楽界を至福の世界に誘ってくれる気がした。

東京タワー文化フェスティバル V プレコンサート

東京タワー展望台 特設スタジオ Club333演奏会のお知らせ

 坪能克裕音楽監督の企画を、三回に分けて紀尾井ホールでのコンサートのハイライト版として公開演奏を開催します。(各1時間内)
 なお、演奏会は無料ですが、東京タワーメインデッキ・Club333への入場料(大人1,200円など)は必要です。

※ 新型コロナウイルスの影響により開催情報など変更になっている可能性があります。おでかけの際は公式サイトにて最新情報をご確認ください。

① 現代音楽作品事典データベース公開イベント 日本文化の源流
 シルクロードの音楽旅行 〜ペルシャ音楽との出会い〜
 2021年7月4日(日) 16:00〜

[プログラム] 

  • イランの文化紹介
  • イランの伝統音楽
  • 日本の伝統楽器の今(箏、三味線、17絃)
  • 現代作曲家作品事典について
  • コラボレーション など

[出演]

  • Amin (イラン民謡歌手)
  • Arash Rahmati(セタール)
  • 林原 慶子(イランのお話)
  • 安藤珠希(箏、三味線) 彩里京鼓(箏、17絃)

② 同2021年7月25日(日) 16:00〜

[プログラム] 

  • ウズベキスタン
  • ウズベキスタンの伝統音楽
  • 日本の伝統音楽
  • コラボレーション
  • Janon Bo’laman(眼龍義治作曲)
  • アトラス着物ショー
  • 碧空に咲く花(金益研二作曲)

[出演]

  • Ismonov Umidjon Bahodirovich(ギジャク)
  • 安藤珠希(箏、三味線) 彩里京鼓(箏、17絃)
  • 岡田道明(尺八)
  • 柿崎竹美(日本民謡歌手)
  • 小池芳子(ソプラノ歌手)

③ 同2021年7月25日(日)18:30〜

[プログラム]

  • リトアニア
  • リトアニアの文化紹介
  • リトアニアの音楽
  • 日本の歌
  • コラボレーション

[出演]

  • 柿崎竹美(日本民謡歌手)
  • 小池芳子(ソプラノ歌手)
  • Zydre Ovsiukaite(バイオリン)
  • Danielis Rubinas(コントラバス)

主催・お問い合わせ: 文化発信促進委員会(CSPC): 03-3455-6881まで
総合ディレクター: 岩本卓也 @東京タワーデザイン:Akko Tera
司会進行: 橘治霞(総合プロデューサー)、ジョセフアマト 通訳:オリムジョンジュマバイフ
助成: 東芝国際交流財団、メセナ協議会 協力:東京タワー、リトアニア共和国大使館、ウズベキスタン共和国大使館、アルゼンチン国大使館、ルーマニア大使館、East Music Center (EMC) 、ウズベキスタン作曲家協会、Genza Corporation、SANSAN他
後援: 邦楽ジャーナル、日本ISMNコードセンター、マザーアース

「競楽」という演奏コンクール ②

 ピアノ デュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)の演奏会を東京文化会館小ホールで聴いた。6月15日(火)に昼夜二回ある方のマチネーの部だった。競楽で知り合った演奏家だが、コンクール参加歴は国内外の実績を既にお持ちのようだ。現代曲ではなく、ラフマニノフやボロディン、そしてサンサーンスの「動物の謝肉祭」で、二台ピアノと連弾により約80分、休憩無しでアンコールを含め連続で演奏されていた。

 夫妻でピアノの演奏家というのは大変だと思われる。音楽を語り、表現すると、意見の一致や共通の美の世界に収斂することが多いからだ。ところが4手の演奏でも相手と音楽的な闘いがある。意見が異なり壊し合う世界もあるだろう。簡単に丸くならない音楽が面白いからだが、人間関係が壊れてしまっては本末転倒になってしまう怖さもあるだろう。
 音が洗練されていて美しい響きを放っていた。そして簡単なフレーズではクラシック音楽の演奏家独特なアゴーギク。すらりと弾いてもいいと思いながら、お弟子さんに伝える語り口もそこから伺えて面白かった。

 「動物の謝肉祭」では二人が谷川俊太郎氏の「動物たちのカーニバル」の詩による朗読も加味させた熱演を見せていた。しかし音楽を物語と合わせると子どもにでも分かりやすいと思ってのこともあるのだろうが、今の小学校の音楽室では先生がたが子どもに指導しない方法だ。
 クラシック音楽から現代音楽とレパートリーは広いが、安らぎの世界に入っていくよりアグレッシブな世界へ挑戦してくださることも期待したい。

「競楽」という演奏コンクール ①

 91年に現代音楽の作曲家団体「日本現代音楽協会」が創立60周年を迎え、その記念に国際的な規模の演奏会を含む『東京現代音楽祭』が開催された。
 音楽の様々な領域を拡大して、子どもから大人まで、アマチュアとプロの音楽家、新しい音楽領域の結びつきなどを掲げて、一ヶ月程の大会で大きな成果を上げた企画があった。

 現代音楽協会会員作品を含む世界の作曲家の新作を、ジュニア・オーケストラとプロのオーケストラによる演奏会「響楽(きょうがく)」、その吹奏楽版の「吹楽(すいがく)」、同合唱版の「唱楽(しょうがく)」、世界の子どもの創造的な音楽活動やそれに関する演奏会・シンポジウム・ワークショップなどの「童楽(どうがく)」、コンピューターが加わった新作演奏会「電楽(でんがく)」、そして現代音楽作品を課題曲とした演奏家の登竜門「競楽(競楽)」があった。

 競楽では朝日新聞社と提携した「朝日現代音楽賞」が、その後四半世紀に亘って若い優れた演奏家に贈られ、日本の音楽界に大きく貢献した。大会会長は故・三善 晃先生で、大会プロデューサー兼事務局長は私が引き受けて、約一ヶ月開催された。それは作曲家団体のコンセプトを変えるほどの画期的な企画となり「音楽之友社賞」もいただいた。
 その競楽の創設は、自分の弟子の育成からは外れた業績になると思われるが、しかし受賞者も知らない私なりの「次世代育成」として、密かに誇りに思っている。
 そこで表彰されて羽ばたいて行く人びとのコンサートに伺うと、他の企画とは別の嬉しさが湧き上がる。
 次回、その種類の演奏会からレポートさせていただく。

国際音楽交流・演奏会

※ 今回、新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」を受け、公演を延期することになりました。後日細部が決まりましたら、再度本ブログでお知らせします。 

 世界の国々と音楽による文化交流は、簡単なようで難しいことです。これまでは参加国通しで伝統的な名曲を歌い合ったり、演奏し合ったりして親睦を深めてきた歴史があります。
 現代の国際的な文化交流は、創造的な活動も加わって来ています。つまり双方の名曲を歌い合い、演奏し合うだけでなく、歌や演奏する人びとが、相手の国の音楽的な要素を理解して「つくり合う」ことも加えた交流に発展しているということです。
 異文化の人びととの創造的なコラボレーション企画の演奏会が今夏開催されます。人びととの出会いから、新しい音楽が生まれて来る時代の最前線をご紹介させていただきます。是非お出かけくださいませ。

World Collaboration Concert II

2021年8月1日(日)
14:00開演 13:15開場 @紀尾井ホール

※開催延期

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