Katsuhiro Tsubonou Official Website. Act 2001~

カテゴリー: 音楽会評論 / Concert Criticism

「競楽」という演奏コンクール ②

 ピアノ デュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)の演奏会を東京文化会館小ホールで聴いた。6月15日(火)に昼夜二回ある方のマチネーの部だった。競楽で知り合った演奏家だが、コンクール参加歴は国内外の実績を既にお持ちのようだ。現代曲ではなく、ラフマニノフやボロディン、そしてサンサーンスの「動物の謝肉祭」で、二台ピアノと連弾により約80分、休憩無しでアンコールを含め連続で演奏されていた。

 夫妻でピアノの演奏家というのは大変だと思われる。音楽を語り、表現すると、意見の一致や共通の美の世界に収斂することが多いからだ。ところが4手の演奏でも相手と音楽的な闘いがある。意見が異なり壊し合う世界もあるだろう。簡単に丸くならない音楽が面白いからだが、人間関係が壊れてしまっては本末転倒になってしまう怖さもあるだろう。
 音が洗練されていて美しい響きを放っていた。そして簡単なフレーズではクラシック音楽の演奏家独特なアゴーギク。すらりと弾いてもいいと思いながら、お弟子さんに伝える語り口もそこから伺えて面白かった。

 「動物の謝肉祭」では二人が谷川俊太郎氏の「動物たちのカーニバル」の詩による朗読も加味させた熱演を見せていた。しかし音楽を物語と合わせると子どもにでも分かりやすいと思ってのこともあるのだろうが、今の小学校の音楽室では先生がたが子どもに指導しない方法だ。
 クラシック音楽から現代音楽とレパートリーは広いが、安らぎの世界に入っていくよりアグレッシブな世界へ挑戦してくださることも期待したい。

「競楽」という演奏コンクール ①

 91年に現代音楽の作曲家団体「日本現代音楽協会」が創立60周年を迎え、その記念に国際的な規模の演奏会を含む『東京現代音楽祭』が開催された。
 音楽の様々な領域を拡大して、子どもから大人まで、アマチュアとプロの音楽家、新しい音楽領域の結びつきなどを掲げて、一ヶ月程の大会で大きな成果を上げた企画があった。

 現代音楽協会会員作品を含む世界の作曲家の新作を、ジュニア・オーケストラとプロのオーケストラによる演奏会「響楽(きょうがく)」、その吹奏楽版の「吹楽(すいがく)」、同合唱版の「唱楽(しょうがく)」、世界の子どもの創造的な音楽活動やそれに関する演奏会・シンポジウム・ワークショップなどの「童楽(どうがく)」、コンピューターが加わった新作演奏会「電楽(でんがく)」、そして現代音楽作品を課題曲とした演奏家の登竜門「競楽(競楽)」があった。

 競楽では朝日新聞社と提携した「朝日現代音楽賞」が、その後四半世紀に亘って若い優れた演奏家に贈られ、日本の音楽界に大きく貢献した。大会会長は故・三善 晃先生で、大会プロデューサー兼事務局長は私が引き受けて、約一ヶ月開催された。それは作曲家団体のコンセプトを変えるほどの画期的な企画となり「音楽之友社賞」もいただいた。
 その競楽の創設は、自分の弟子の育成からは外れた業績になると思われるが、しかし受賞者も知らない私なりの「次世代育成」として、密かに誇りに思っている。
 そこで表彰されて羽ばたいて行く人びとのコンサートに伺うと、他の企画とは別の嬉しさが湧き上がる。
 次回、その種類の演奏会からレポートさせていただく。

オペラ「 Only the Sound Remains -余韻-」

 フィンランド生まれの世界的な現代音楽の作曲家カイヤ・サーリアホのオペラ「Only the Sound Remainsー余韻ー」が、6月6日・東京文化会館で日本初演された。
 東京文化会館の60周年記念の「国際共同制作」であり、日本文化と海外との創造的なコラボレーション作品になっていて、美事な歴史に残る作品として上演された。
 日本の伝統文化に触発された芸術が、音楽でここまで昇華された世界に出逢うことはなかなか無かった。能や歌舞伎、民俗芸能から邦楽の世界の影響を得たと作者が告白しても、どこかコピーを感じさせる迎合部に失望を感じたりすることがあったが、本作品は正にオリジナルの世界を展開させていた。

 原作は、能から第一部「経正」、第二部「羽衣」だ。英語で歌われ、そこにダンスが加わり、簡易に見えても人びとを精神世界に誘う舞台装置・音響・照明の演出は、異次元の世界を創出させていた。
 笛や打楽器での表現や、ダンサーの歩みに、時として能からのインスピレーションを感じさせるが、完全に国境や時間を越えたオリジナルな世界になっていたと思った。日本文化から影響を受けたという作品群のなかにあって、かつてこれ程美事な世界として聴かせていただいたことはなかった。日本文化とのコラボレーションの秀逸な例として、これから各国で何度も上演されて行くような実感を持った。

 7名程度の国際的なメンバーによるアンサンブルが小編成のオーケストラのような世界を描いていたことも驚嘆した。企画制作から、上演へ向けた全てのサポート、そして今回はコロナ禍のなかでの苦労を越えて成功させたことは、これ以上の讃辞の言葉を知らない。