新人社員が三日目には辞表を出して辞めていく。
 面接だけでは分からない勤務先の様ざまな価値観に遭遇するには、二三日は掛かるからだ。人が集まると、様ざまなハラスメントが待っているのが常だ。自分の才能を生かされるかではなく、誰が自分を護ってくれるかの判断は、外からでは分からないものだ。ピンときたら逃げるのも大切なことだと思う。

 「学校を一つあげるから、好きなようにやってくれ」という誘いを学校の旧理事長から受けたことがあった。全面的なサポートを学校内外から人的にも経済的にもする、という話だったので引き受けざるを得なかった。
 入ったら、在職者の心は荒廃していて、伝えられる情報はデタラメで、私を招聘した先生は豹変して高圧的な態度になった。誰を、何を信じていいのか分からなかった。そこで急遽、経営や法律の専門家に学内資料を調べて貰ったら、何かあった時に私を護ってくれる文言が何処にも無いことが分かった。「逃げるが勝ちだ」と判断して、三日目に辞表を提出した。
 旧経営者の態度は一変した。なだめられ、一旦は継続することにしたが、長居は無用という判断は曲げなかった。その時までに、社会の中の学校、経営の秘密、音楽家の学校との関係、未来の音楽家や教育問題など、テーマを決めて体得することにした。それはその後役立つことになったが、この時期の様ざまなアクシデントは、仲間・先輩・後輩との優れた信頼関係にヒビが入ったなどの損失は大きかった。