音楽の深さは私たちにとって底知れぬ力があることは万人の知るところです。
音楽は知識があろうとなかろうと、その人の全人格が受け入れて感動させてくれる。
私の音楽の師が教えてくださった例ですごいと思ったことは、何も音楽の知識がないひとでも感動を伝え、楽書に通じたひと、音楽表現に通じたひとそれぞれのグレードにあった指導をしてくださっていたことだった。
作曲を志ざし、勉強をする過程で次々に解って行くことがあった。楽譜をやっと読めた頃とは違う感動があった。そして自分も作曲し、演奏するようになった時は、同一曲を聴いても以前とも違う感動が生まれてきた。昔の理解は何だったのか恥ずかしくなった。
その後多数の楽曲や、現代曲の難解な楽譜を見ても解る世界があって、作曲者が何を考えて、どんなテクニックを使っているかも解ってきた。だから全体で何を描いて、細部展開させる実力も聴こえてきたように思った。そして「これは何だ!」と驚くような世界を展開させている音楽に出会うこともあった。それこそ「天才」の表現する世界だったと感じた。クラシック音楽を例にとっても、残って来ている音楽の全てでそう感じる。
何も知らないで聴いていた時代の良さもあったし、良く勉強した時代に感じた喜びもあったが、それらの経験を重ねた結果、自分と天才諸氏の力の差に愕然とし「何だ、音楽の何かも知らないで生きて来たんだ」という思いだけが残った。