波瀬満子(はせ みつこ)を知るひとは少ないかもしれない。亡くなって十年程になるだろう。実力も人気もあった奇人・変人の天才だった。文化芸術や芸能界には、中身が無いのに目立ちたがりの芸人が多いのだが、波瀬さんはお笑い芸人でもないのにステージに立った瞬間、どこか可笑しいし怪しく、瞬時に観客の目を集めさせ「ことばあそび」の世界に誘ってくれるのだ。とにかくボディランゲージを加え「あ・い・う・え・お」(拙作の音楽で)と踊り出すかと思うと、ことばあそびによる早口言葉や朗読劇 、一人芝居で詩の世界を展開させていくのだった。

 もう45年も前に現代音楽のイベントのステージで、私が乱数表を無表情に淡々と読み上げている隣で、天気予報を様々な感情を込めて表現していた・・・悲しそうに泣きながら読んでいるかと思うと、突然笑いながら、怒りながら、また歌舞伎調のように、時にはひとをバカにしながら、読み上げていくのだった・・・
 ヘンな女優と出会って以来、沢山の仕事をご一緒させていただいたが、このような天才女優は他の追従を許さない国宝のようなアーティストだった。

 半世紀前に、詩人の谷川俊太郎さんと「ことばあそびの会」をつくり、たくさんの書籍やステージ、録音・録画のお仕事をしていらした。時には人形と共に「あらま先生」となり全国を回り、晩年は NHK・Eテレでことばあそびの番組に出演されていた。とにかく企画からも TVの画面のワクからもハミ出る活躍に、子どもから大人までビックリしながらも楽しませていただいたようだった。

 キングレコードの「ことばとあそぼう」シリーズも私が音楽を担当させていただいて凄かったが、ブリタニカ版の同名のそれは最高傑作だと思っている。しかしもう手に入らないが、持っている人は「お宝鑑定団」行きだとも思っている。