いい音、面白い音、新しい音は必ずしも一致していない。しかし新しい電子楽器をつくるには、それらの課題をクリアさせる必要がある。
 電子キーボードは電子回路を使ったシンセサイズ(合成音)で出来ている。その回路づくりに各社の秘密がある。既成の電子オルガンもシンセサイザーと同じで、常に新しい素材の組み合わせで音が生み出されている。

 試作段階では必ず一つの音が「何故いい音ではないのだ」、という議論が技術者どうしで問題にされる。既成のアナログ楽器に似ていれば「いい音」だとも言える。しかしアナログ楽器にない、いい音の判定は難しい。既成楽器にない音だから面白い合成音としてユーザーに支持されることもある。楽音に無い変わった音は人の感性に支持されるか微妙な問題が残る。

 【サンプリング】という技術がある。ピアノやヴァイオリンの名器の音を記録し、鍵盤上に再構築する術だ。それは名器と区別が付かないほど優れた音に再生可能だ。そこに個性や新しさが何処まであるかは別問題だ。
 友人にオナラをサンプリングした人がいた。それでベートーヴェンの「運命」や「ぞうさん」を弾くと、それはそれで面白いが、その面白さは何にでも使えるかというと難しい問題になる。新しい音といっても、楽曲とのマッチングで生かされないと使われないことになる。

 楽音の原理は、純音・平形・矩形・鋸歯状波などの組み合わせだが、その塩梅具合なども製品の個性になる。新しくていい音の創造は簡単ではない。それぞれの波形を持った音が同時に響き合う組み合わせは、オーケストラやパイプオルガンと同じで、それらの波動がシンセサイズされた世界に人びとを誘わせてくれることになる。